トライボロジー(摩擦、摩耗、潤滑など)の仕事や生活との関わり

ものともの摩擦に伴い起こることと日常の仕事や生活の繋がりを記します。

「摩擦」という言葉の意味は、どの意味で使っていくかを把握するのが大事

摩擦という言葉を国語辞典で引くと、例えば次のような内容が出てくる。

[名](スル)
1 物と物とがすれ合うこと。また、こすり合わせること。「肌を摩擦して暖をとる」「乾布摩擦」

2 人間の社会関係で、二者の間に意見や感情の食い違いによって起こる、不一致・不和・抵抗・紛争など。軋轢(あつれき)。「貿易摩擦

3 互いに接触している二つの物体のうち、一方が運動しようとするとき、または運動しつつあるとき、その接触面に運動を妨げようとする力が働く現象。また、その力。相対速度により運動摩擦・静止摩擦に、運動状態により滑り摩擦・転がり摩擦などに分けられる。

                   (出典:デジタル大辞泉小学館))

文脈から、これらのうちの「2」については、そういう意味と認識できる場合が多いでしょう。
混同しやすいのは、「1」と「3」です。なぜかというと多くの場合、「1」の状態になることで、「3」が起きるためである。具体的な例を挙げれば「摩擦をすると摩擦が起きる。」という文書を読み取るとすれば、前者の「摩擦」は上記の「1」、後者の「摩擦」は上記の「3」の意味です。具体的には運動摩擦です。

さらにややこしいのは、「1」の状況ではなくても、「3」が起きることがある、ということです。具体的には接触した2つのものを相対運動させよう(すべらせよう)とすると、「3」の意味での摩擦が起きます。具体的には静止摩擦がです。この時、「1」のよにすれあっている状況ではなく、すべらせようとしている状況で、「1」の意味では「摩擦」している状況ではありません。文章にすれば、「摩擦しようとしても、摩擦がある」と書けるでしょう。この場合の前者の摩擦は「1」、後者の摩擦は「3」の意味です。

端的に言えば、「1」の意味で使うとすれば、「摩擦する」といった表現で、「3」の意味で使うとすれば「摩擦がある」という表現で使うということになるでしょう。

こんなことを敢えて書いたのは、こんなことを感じるからです。
(1)一般的には「名詞+する」という言葉は、一義的な意味になる場合が多いと思いがちですが、摩擦の場合は、そうならないことがある。
(2)「3」の意味での摩擦という言葉が、高等学校までの教育を経てもごく一部の人にしか正しく理解されていないのではないか

私自身も摩擦の研究に若い頃関わりましたら、それでもその後仕事をしながら、物理における摩擦の教育方法を研究し始めた頃、自分自身が混同していたことに気が付き閉口しました。
言葉が示している「摩擦」具体的な意味や状況をきちんと把握しなければ、摩擦についてのやりとりが正しくできないと強く感じています。