トライボロジー(摩擦、摩耗、潤滑など)の仕事や生活との関わり

ものともの摩擦に伴い起こることと日常の仕事や生活の繋がりを記します。

トライボロジスト、教育方法の研究者、行政書士、知的財産管理技能士、やってます

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最初の投稿になります。

現在の主な仕事は

企業支援を中心とした行政書士をしています。

これまで、

大学でトライボロジー(固体どうしの摩擦に

よって起こる様々な現象を扱う学問分野)を、

自治体に就職してその大半で

企業支援などの産業振興部門に関わりました。

また、仕事の傍らで

地域のトライボロジーの関係者の

ネットワークづくりや

摩擦の教育方法の研究と実践に携わり、

昨年、独立したところです。

現在の本業のホームページは

こちらです。

https://www.enreiso.com

こちらのブログでは、

仕事や家庭生活での

問題解決にトライボロジーの知見が

どう役立つかなどを中心に

投稿していきます。

どうぞよろしくお願い致します。

 

「摩擦」という言葉の意味は、どの意味で使っていくかを把握するのが大事

摩擦という言葉を国語辞典で引くと、例えば次のような内容が出てくる。

[名](スル)
1 物と物とがすれ合うこと。また、こすり合わせること。「肌を摩擦して暖をとる」「乾布摩擦」

2 人間の社会関係で、二者の間に意見や感情の食い違いによって起こる、不一致・不和・抵抗・紛争など。軋轢(あつれき)。「貿易摩擦

3 互いに接触している二つの物体のうち、一方が運動しようとするとき、または運動しつつあるとき、その接触面に運動を妨げようとする力が働く現象。また、その力。相対速度により運動摩擦・静止摩擦に、運動状態により滑り摩擦・転がり摩擦などに分けられる。

                   (出典:デジタル大辞泉小学館))

文脈から、これらのうちの「2」については、そういう意味と認識できる場合が多いでしょう。
混同しやすいのは、「1」と「3」です。なぜかというと多くの場合、「1」の状態になることで、「3」が起きるためである。具体的な例を挙げれば「摩擦をすると摩擦が起きる。」という文書を読み取るとすれば、前者の「摩擦」は上記の「1」、後者の「摩擦」は上記の「3」の意味です。具体的には運動摩擦です。

さらにややこしいのは、「1」の状況ではなくても、「3」が起きることがある、ということです。具体的には接触した2つのものを相対運動させよう(すべらせよう)とすると、「3」の意味での摩擦が起きます。具体的には静止摩擦がです。この時、「1」のよにすれあっている状況ではなく、すべらせようとしている状況で、「1」の意味では「摩擦」している状況ではありません。文章にすれば、「摩擦しようとしても、摩擦がある」と書けるでしょう。この場合の前者の摩擦は「1」、後者の摩擦は「3」の意味です。

端的に言えば、「1」の意味で使うとすれば、「摩擦する」といった表現で、「3」の意味で使うとすれば「摩擦がある」という表現で使うということになるでしょう。

こんなことを敢えて書いたのは、こんなことを感じるからです。
(1)一般的には「名詞+する」という言葉は、一義的な意味になる場合が多いと思いがちですが、摩擦の場合は、そうならないことがある。
(2)「3」の意味での摩擦という言葉が、高等学校までの教育を経てもごく一部の人にしか正しく理解されていないのではないか

私自身も摩擦の研究に若い頃関わりましたら、それでもその後仕事をしながら、物理における摩擦の教育方法を研究し始めた頃、自分自身が混同していたことに気が付き閉口しました。
言葉が示している「摩擦」具体的な意味や状況をきちんと把握しなければ、摩擦についてのやりとりが正しくできないと強く感じています。

靴の底にはなぜ溝があるのか

私達の履く靴の底には一般的には溝があります。もしこの溝がないとどうなるかを、考えてみます。

 

まず、考えつくのは平らで凸凹がない面を溝の無い靴で歩いたら、滑りやすくて歩きにくいのではないか、ということです。

 

実は、あまりこれについては直ちに問題にはなりません。歩く床が濡れていなければ、靴底がゴムやゴムに似た素材であるエラストマーなどであるため、溝の有無関わらず滑りにくいです。

 

しかし、床が平らな面で濡れていると、俄然滑り安くなるのです。もし、水に濡れた平らな面の上に溝の無い平らな靴底で歩くと(現実には靴底がすり減って溝が無くなっている場合が有り得ます)、極めて滑りやすく危険です。雨の中外を歩いた後にビルに入ってタイルや大理石の床でいきなり滑ってヒヤッとしたことがある人も多いでしょう。

 

この滑りやすさは、靴底と歩いている面の間に水の層が出来るのが大きな理由です。専門家の間ではこのような状態を流体潤滑といいます。流体潤滑の状態になると、固体どうしが接触している状態に比べて、(境界潤滑と言います。この場合、靴と床が直接接触している状態です)数桁滑りやすさ(摩擦係数)が減ります。

水の層ができていると滑りやすい、ということは直観敵にも分かるでしょう。

 

ならば、靴底に溝があるとどうなるかというと、溝のある部分から自らが逃げ、水の層は出来ません。このため、溝の無い部分も水の膜は出来にくく床に接触しやすくなります。結果的にはある程度の摩擦が起き、滑りにくくなるのです。

靴底の溝の重要性はむしろ水の層が出来ることをさけることにあると言えるでしょう。

 

なお、氷の面でも滑りにくい靴はどうしたら、となると容易ではありません。これまで様々な商品が出ていますが、未だに滑りにくくする性能の向上は道半ばです。これについては別に記事を書きたいと思います。

患者、要介護者などのベットからの移動を補助するシート

トライボロジー(摩擦、摩耗、潤滑などを対象とした学問分野)は、現象解明に向けた基礎的な研究もおこなわれていますが、まだまだ奥が深く不明な点も多く、学際的な分野と言われます。

昔から、機械の製作や潤滑油の性能向上などで、機械工学や化学工学とは縁が深いと言われており、実際この分野での実用的な知見は多く積み重なれ、実現されています。

このように、トライボロジーの一つの方向としては、問題になっている摩擦を伴う現象と向かいながら、その対策を考える、というのが重要な要素です。

先に記したように、機械関係での例は、山ほどあるのですが、その他に摩擦をうまくコントロールして、問題を解決をしている例があります。

その例が、入院している患者や、要介護者などの自身での移動が困難な方を、別途からストレッチャーに移動するときに、介助する看護師などの体への負担は相当なことになります。

そのような悩みを聞いた、トライボロジーの研究者である東北大学の堀切川一男教授が、それなら患者が載せられる程度のプラスチック板に極めて滑りやすい素材であるテフロン(PTFE)を吹き付けて乾燥させたシートを作り、患者とベットの間にそのシートを滑り込ませて、そのシートの上で患者を滑らせてベットからストレッチャーに移動させてはどうか、というアイデアを出しました。
実際に試してみると、とても楽に移動することができ早速利用されるようになりました。このシートの開発が1998(平成20)年、今は様々な事業者が同様の製品を、商品化して販売しています。

ちなみに、東北大学の堀切川一男教授は、日本のトライボロジーの中でも、地域の事業者のために役立つ取り組みを最も熱心に取り組んでいる方で、その姿勢から「御用聞き学者」、さらに産学連携についての専門家らの間では「仙台堀切川モデル」として知られています。

上記の例はほんの一例で、従来より中心的に問題解決に向き合ってきた機械製造などの分野に限らない多様な問題解決、トライボロジーの知見が役立つ可能性があります。

現実に、トライボロジーや理論と実践の両輪が特に不可欠な側面を持っていることもあり、大学の研究者でも比較的地域の事業者の支援に関わっている方が多いのではないかと思っています。

私がお世話になった研究室の諸先輩方も、既にその専門では第一人者になっている方が多いですが、同時に地域の企業の問題解決に積極的に関わっている方もいます。

これからも、様々な視点でトライボロジスト(トライボロジーの研究者)が、事業者の問題解決に役立てる場があると思っています。

○参考文献・林聖子:仙台堀切川モデル,産学官連携ジャーナル,科学技術振興機構,2007年7月
https://sangakukan.jst.go.jp/journal/journal_contents/2007/10/cover/0710-all.pdf

なぜ摩擦面では、様々な現象が起きるのか

ものとものとをこすると、摩擦力や摩擦熱などの様々な現象が起きる、という投稿は、別にしていますが、そもそもなせこのようなことが起こるのかを記します。

例えば、平らで滑らかな面を持つものどうしをこする場合、次の点に目を向けることが重要です。

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(1)見た目には平らで滑らかな面も、拡大して見ると凹凸がある(ごくまれな特殊な加工をした表面を除きます。)

(2)平らで滑らかな面どうしを接触させても、見た目の接触面全部が接触しているのではなく、表面にある凸部どうしが接触している。そして、その実際の凸部どうしの接触している部分の面は、ごくわずかである(一般的には、見た目の接触面籍の数万分の一程度。接触させる材料の硬さと押し付ける力の大きさで変わります。)。

(3)したがって、実際に凸部どうしが接触している部分には、極めて高い圧力がかかるため、その状態で滑らせると様々な現象が起きる。
その圧力のイメージは、例えばアクリル板の上に同じ材質の100g程度のアクリル板を載せると、実際に接触している部分には、大まかには、人差し指の上にお相撲さん10人を乗せているような状態と言えます。

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一見不思議に見えますが、接触面を拡大していると、こういうことがごく日常的に起きています。

表面がざらざらな面であれば、より明確にいろいろなことが起こることが見た目にもわかるでしょう。材料の表面を平らにするために、やすりなどで研磨するといったことはその例です。

摩擦面ではいろんなことが起こります

ものとものを擦ると、その摩擦面では様々なことが起こります。

良く知られているものとしては、摩擦力(摩擦抵抗)、摩擦熱、静電気が挙げられます。

自動車などのブレーキは、ブレーキのパッドを動いている車輪を構成している部分の一部に押し付けて摩擦力を起こすことで、減速できます。

最近は摩擦すると熱が起きることを利用して、熱を受けると消えるインクを使用することで、消しゴムのようなかすが出ずに文字が消えるボールペンも商品化されています。

その他にも、消しゴムかすのような、摩擦しているものが摩擦面で脱落していく摩耗や、化学反応が進んだり、発光がおきるなど、様々な現象が起きることが知られています。

比較的身近な例を挙げましたが、工業的には摩擦に伴う現象をうまくコントロールすることは、重要な課題です。


例えば、摩擦に伴って、ものとものを摩擦する際に加えられたエネルギーの大半は熱として逃げていきます。摩擦熱として逃げていくエネルギーは、摩擦力を減らすように素材や構造を工夫することで減らせます。
その工夫をすることで、例えば電気などで動く機械機器の消費電力を減らすことができます。このことは省エネルギーに役立つと言え、運転コストの縮減にもつながります。

一方で、摩擦が大きくなければ困る場合もあります。例えば、いかに高速に運転できるようにエンジンやモーターの性能をあげた車を作っても、それを止めるためには、ブレーキの性能も併せて高めなくてはなりません。そのためには、ブレーキを働かせたときに摩擦力が大きくなるような工夫が必要となります。特に、高速運転する電車などはそういったことが重要でしょう。

まず数例をあげましたが、より幅広い分野で、業務上の様々な課題を、摩擦をうまくコントロールすることで解決している事例があります。

今後その例を、順次投稿していきます。