トライボロジー(摩擦、摩耗、潤滑など)の仕事や生活との関わり

ものともの摩擦に伴い起こることと日常の仕事や生活の繋がりを記します。

患者、要介護者などのベットからの移動を補助するシート

トライボロジー(摩擦、摩耗、潤滑などを対象とした学問分野)は、現象解明に向けた基礎的な研究もおこなわれていますが、まだまだ奥が深く不明な点も多く、学際的な分野と言われます。

昔から、機械の製作や潤滑油の性能向上などで、機械工学や化学工学とは縁が深いと言われており、実際この分野での実用的な知見は多く積み重なれ、実現されています。

このように、トライボロジーの一つの方向としては、問題になっている摩擦を伴う現象と向かいながら、その対策を考える、というのが重要な要素です。

先に記したように、機械関係での例は、山ほどあるのですが、その他に摩擦をうまくコントロールして、問題を解決をしている例があります。

その例が、入院している患者や、要介護者などの自身での移動が困難な方を、別途からストレッチャーに移動するときに、介助する看護師などの体への負担は相当なことになります。

そのような悩みを聞いた、トライボロジーの研究者である東北大学の堀切川一男教授が、それなら患者が載せられる程度のプラスチック板に極めて滑りやすい素材であるテフロン(PTFE)を吹き付けて乾燥させたシートを作り、患者とベットの間にそのシートを滑り込ませて、そのシートの上で患者を滑らせてベットからストレッチャーに移動させてはどうか、というアイデアを出しました。
実際に試してみると、とても楽に移動することができ早速利用されるようになりました。このシートの開発が1998(平成20)年、今は様々な事業者が同様の製品を、商品化して販売しています。

ちなみに、東北大学の堀切川一男教授は、日本のトライボロジーの中でも、地域の事業者のために役立つ取り組みを最も熱心に取り組んでいる方で、その姿勢から「御用聞き学者」、さらに産学連携についての専門家らの間では「仙台堀切川モデル」として知られています。

上記の例はほんの一例で、従来より中心的に問題解決に向き合ってきた機械製造などの分野に限らない多様な問題解決、トライボロジーの知見が役立つ可能性があります。

現実に、トライボロジーや理論と実践の両輪が特に不可欠な側面を持っていることもあり、大学の研究者でも比較的地域の事業者の支援に関わっている方が多いのではないかと思っています。

私がお世話になった研究室の諸先輩方も、既にその専門では第一人者になっている方が多いですが、同時に地域の企業の問題解決に積極的に関わっている方もいます。

これからも、様々な視点でトライボロジスト(トライボロジーの研究者)が、事業者の問題解決に役立てる場があると思っています。

○参考文献・林聖子:仙台堀切川モデル,産学官連携ジャーナル,科学技術振興機構,2007年7月
https://sangakukan.jst.go.jp/journal/journal_contents/2007/10/cover/0710-all.pdf